診療所の経営・相続Q&A「自費診療のマネジメント」
診療報酬改定により、クリニックの経営が数年前よりも明らかに厳しさを増しています。そこで、新たに自費診療を始めようと思うのですが、価格設定は何を参考にしたらよいものでしょうか。
解説:日本経営ウイル税理士法人
藤井 亜希子
値決めは経営
診療行為により点数が決められている保険診療と違い、自費診療に決められた価格はありません。だからこそ、価格設定が重要になるわけですが、実際はその点を苦手にされている先生も多いように感じます。
京セラの創業者である稲盛和夫氏はそのフィロソフィの中で「値決めは経営者の仕事であり、経営者の人格がそのまま現れる」と伝えています。値決めをするためには経営のあらゆることを分かっていなければならず、だからこそ、値決めは経営者でなければできないものです。
では、具体的にどのようなことに気をつけて、自費診療の価格を決めたらよいのでしょうか。
コストを把握する
まず、その自費診療を行うにあたり、かかるコストを把握します。皮膚科クリニックが医療脱毛のサービスを始めた場合を例に、新たにかかるコストを考えてみましょう。
真っ先に思いつくのは、機器の購入や保守費用などです。
- 脱毛レーザー機
- 備品、消耗品
忘れがちなのは、自費診療に携わる投下時間です。
- 人件費
まずは必要経費を明らかにして、損益分岐点となる最低価格を計算します(さらに、その機器を設置するスペースの家賃や、患者さんに訴求するための宣伝費なども大きなコストになります)。
ところで、難しいのは設備投資の回収期間です。仮に1,000万円の設備投資をしたとして、それを何年で回収するか。機器のリース期間や耐用年数などを勘案して、1年あたりのコストを算出します。
競合クリニックの価格設定を知る
競合先の価格帯は、HPを見ればすぐに調べることができるでしょう。それを基準に、自院の価格を設定されることも多いのではないでしょうか。
競合先のベンチマークをすることで、確かに、どのような工夫をしているか学ぶことができます。自院の問題解決の参考にもなるでしょう。
しかし、「値決めは経営」とあるように、何を目標(目的)とすべきかを主軸に考えると、ベンチマークだけで価格を設定してしまことはできません。先の設備投資の回収計画とあわせて、自院にとって最適な価格を導き出していきましょう。
価格設定は競合と差別化できる大きな要素でもあります。自院ならではの強みを明確にし、競合との差別化を図ります。
コンセプトで差別化を図る
10代~20代といった若者世代を対象として、「当院ではどこよりも安くて安全を売りにしています」というクリニックがあります。一方で、内装やスタッフの接遇、アメニティにもこだわりの品を使い、「価格は高いけれども絶対に満足できる」というブランドを確立したクリニックもあります。
まずは、どういった層の患者さんに来院してもらいたいのか、理想とするクリニックのコンセプトを明確にし、そのコンセプトに合ったメインターゲット層を設定します。そしてそのターゲットに一致したメニュー・サービス・価格を設定できれば、自ずと他院との差別化が可能になります。
今回は皮膚科の事例を考えましたが、自費診療は価格競争も激しく、より新しい機器も出てくるでしょう。差別化のためのベンチマークと、投下した資金をどう回収するかのシミュレーションは、不可欠です。
一方で、保険診療と自費診療のバランスは、今後ますます重要になるでしょう。長期的に安定した経営を再構築しようとお考えのときに、判断に迷われることがありましたらぜひお問い合わせください。
解説:医療事業部 藤井亜希子
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医療・介護
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